ホームステイ

30歳独身男が米国のユタ州ソルトレイクシティでホームステイをしながら5週間英語学校に通うことになった。働き盛りの中堅社員に業務から離れて英語を勉強させてあげるのだから、遊ばないようにとこのローカルな環境を選んだと聞く。自動車はロック不要という超安全な街で、繁華街と言えそうなところもない。そんなのどかなまちで、初対面の米人家族と生活するのは何ともいえない唐突感があり、映画のシーンに放り込まれたかと、不思議な毎日であった。ある晩結婚式があると言うので、ステー先の家族に連れられてさらに知らない家にでかけた。その家に入った途端花嫁から頬にキスされ、訳も分からず思わず両手で花嫁の手を握りしめた記憶がある。5週間で二家族を体験する。一軒目、ご主人が病院勤務の医者で二十代半ば、専業主婦と一歳前後の男の子3人家族である。朝、夫人がサニーサイドアップスクランブル?と、誠に丁寧な扱いであった。元々東洋人に興味あったか、日本からはるばるやってきたオッサンを哀れんでくれたのか。目の下にそばかすがあって少女の面影が残る、可愛い妹のようで毎朝が楽しかった、ある晩、子供の相手をしていたときに、指先をみつめて泣きだした。その指に唇をあてて、やさしくさすってやると泣きやんでにっことした。言葉はいらなかった。さて二軒目はというと、これが初日の朝から待っても朝食が出ない。人影もない。すでにみんな出かけたようだ。事前の説明が聞き取れなかったのか、米国の常識なのか。台所を良く見るとテーブルの上にシリアルが箱ごといくつかドンと置いてあった。一軒目とは全く違ったドライな扱いだった。これも異文化体験かと日本人と韓国人のクラスメートに聞いたら、彼らの家は自分の一件目よりさらに世話好きだとか。我慢できずに英語学校にクレームしてステー先を変えてもらった生徒もいたらしいが、それも面倒だしとそのまま耐えることにした。もともと昼食と夕食は付いていない、朝だけのこと。素泊まりと思えば、大したことではない。あれから30年、今度は自分の家にパリからフランス人形のような4歳の女の子が5週間滞在した。フランス人のお父さん、日本人のお母さんと一緒だが、昔が懐かしく思えた。いつもは飼い犬のハルが注目を浴びるのだが、その5週間はこの子に入れ代わっていた。日本語とフランス語それによくわからない中間語。すべてが可愛くおもえたのは、年のせいかなと。

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(フランス人形が背負ってきた。バースイヤーワイン)

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