ほんとのこと

子供のころの記憶では家にいわゆるまともな本がなかった。家業の商売優先で子供の教育は、良くいえば放任という環境だったから。教科書以外の本を開いたのは、小学校の上級生になって読書感想文の宿題があった時が初めての経験だった。それから何年もたった二十代後半にやっと楽しめる本を読んだ。世間との比較では晩熟に違いない。童話、少年雑誌、コミック、小説等々楽しむ本と距離を置いていたので、大分遠回りしてしまったようだ。読書は義務と思っていたのでストレスであった。今、約一時間の通勤途中に文庫本を読むことがルーティーンとなっている。27歳のころ職場の同僚、と言っても東大法学部卒女性総合職に英国作家の小説を借りて、目から鱗を体験、爾来車中や待合の暇つぶしには文庫本がかかせない。ほんとのことは他にも。水泳が面白いと思えたのは、ジムで息継ぎを教わった50歳。犬を身近に接して可愛いと思えたのも53歳。人との付き合いに楽しみをおぼえたのもその頃になってやっとである。ほんとに遅いでしょう。本とのことにもどれば、その英国作家の訳本は文庫本の発刊があるたびに優先して読み続けている。通勤途中、スマホに混じって、文庫本を手にしているお兄ちゃんお姉ちゃんおばちゃんがいると表紙の文字を書きとめて、新ジャンル挑戦も時々やります。フランスの哲学者の本は全体的には苦痛であったが、局所に身に染みるフレーズがあって、手帳に書き留め、たまにブルーな気分の時に顧みている。何十億の人類の中で、こんな自分に似た人間がどれだけいるか、統計的に自分がどの程度偏っているのか。知ってどうなるものでもないし、ほんとのこととともに日々生きている。(二頭の里親になった時に、立派な名前を彫ったプレートももらいました。)

f:id:toyotac:20180810172239j:plain

f:id:toyotac:20180810172324j:plain