コウモリ君

風呂の洗い場の隅に黒い何かがあって、近づいてみると生き物らしい。コウモリのような羽根、弱っているのかほとんど動きがない。急いでティッシュを何枚も重ねてそいつをくるんで、洗面台下の蓋つきのごみ箱に捨てた。ところが少しして次のゴミ捨ての時にそいつがティッシュを抜け出てゴミ箱の入り口の方迄。這い上がっているではないか。生きているんだ。殺生はいけないと、ゴミ箱ごと裏口までもっていって振動させながらそいつを地面に置いた。弱い雨の夜。生き延びろよと言ってドアを閉めた。翌日、いないでくれよねと思ってみたらいなかった。生き延びたのだ。コウモリ君、一度はゴミ箱にすてた人間を恨んでるだろうか?聞けばコウモリとの遭遇は幸運の兆しらしい。ただし恨まれたらその限りではなさそうだ。それにしてもなぜ風呂場に。我が家は鉄筋なので天井裏とかがない。たまにゴキちゃんが現れるが、ルートは排水溝だと容易に想像できる。小ぶりの蜘蛛はたくさんいるが敢えて見ぬふりをしている。蚊はめったにいないが見つけたらとことん追っかける。人間社会ではどこまでを仲間、味方にいれるか。それしだいでは命をも奪う。今それがほぼ毎日ニュースになっている。家畜や魚の命はどこに線を引くかか悩ましい。せめて人間の命は仲間や敵味方関係なしにリスペクトしたい。普段みんなそう思っているに違いないが、突然一線を守れず、越えてしまうのだ。人間って複雑。もやもやだらけだ。ところでコウモリ君はどうしているのか?家族や仲間のところまでたどり着いただろうか?そしてどんな報告してるだろうか?ゴミ箱に捨てたことはだまっててくれるだろうか。それ以前にきゃつがどう思っているかがあるじゃないか。反省しています。

(上:もう飛べない、坪庭にて。下:門柱のスリットにて。羽化の瞬間です。)