最後の晩餐

すでに死を思うことすらできなくなっていた本人にとってそう特別ではなかったろうが、自分だけは本人への最後の晩餐をと心を込めて正月の雑煮を用意した。こんな顔してくれたことあったかというくらい穏やかな、菩薩様のような表情。微笑んでいるでもなし、不安でもない、やさしいおだやかな、そして一言美味しいと言ってくれた。これで自分は救われた。この時とばかりに奮発したシャンパンで乾杯、口だけ付けたグラスでお下がりをいただいた。もう半分菩薩様なのだから。実家に伝わる白みそ、精進料理のおつけ。よかった。夫婦になって最初のお仕事はウエディングケーキ入刀。そして最後の共同作業は、マックスとチョコを里親するお迎え。自分だけ当日に知った二頭一緒というハプニングとサプライズ。いや待て、もう一つあった。二匹、いや二人。孫半日預かり労働。羽田空港国際線ターミナルに連れて行った。そして孫たち家族が帰って行ったあとの二人の夕食。その時は最後だとは思いもよらなかったので適当に駅ビルのインド料理にした。予想に反してやけに甘いカレーだったが、それもなつかしい。最後と言えば。彼女が20年前に植えた庭の低木が咲いていたので携帯で撮って病床にもっていった。忘れていた花の名を、スモークツリーだよって言ってくれた。最後に見た家の花はこれだった。次は自分が迎える最後、最後の晩餐か、全く想像できません。

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(いつもより少し味付けを濃い目にした最後の晩餐。今年もスモークツリーは咲いてくれた。)