能はFクラス

先週初めての演能、念願の「葵上」に挑戦した。古稀、社中の5周年記念、能楽堂建て替え、この三つがかさなり、今しかないということで踏み込んだ。演じても見ても面白いこと、そして何よりも好きにならないと厳しい稽古と本番に耐えられない。葵上はその条件を満たしている。趣味としての能楽には謡、仕舞、舞囃子、能があるが、舞囃子ビジネスクラスとすると能はFクラスである。地謡シテ方、ワキ、囃子方、すべての扱いが別格になる。初めてFクラスに乗ったときの扱われ方を思いだした。亡き妻が残してくれた天文学的なマイルをつかって、コロナの直前にFクラスでNYを往復した。現役のころビジネスクラスには何度も乗ったが、Fクラスの扱いは別格。能はそのような位置づけだと今回実感した。上演は約1時間、お面をつけると視界が小さくしかも目の位置がずれるので片目しか一致しない。能では装束というが、これが本番になると特別に厚く重くなる。リハーサルの時とは比べ物にならない豪華で艶やかとわかり、見た瞬間にテンションが上がった。半年間の稽古と本番、それに向かうマインドコントロール、上演中の諸々のハプニング。本番は師匠でも何が起こるか予想できないという。だからこそ橋掛かりから元の幕に戻ったときのあの瞬間のホッとは重かった。得も言われない。大変だったが、本当にいい経験をさせてもたったと、今はまだ幸せ感に酔っている。自己満足といえばそれまでだが、自費出版ってこんな感じなのかと。コスパとしては大満足です。

(上:葵上が終わって静まり返った能舞台、長男が撮影。下:Fクラスのシートから

JFKの滑走路が見えてきました。)