お兄ちゃんのお古

長年愛用している二つの腕時計、一つはスチールでもう一方は金メッキもの。二つとも兄ちゃんのお古である。高度経済成長期を経て日本では当時腕時計は中学生からが常識だった。文字盤に蛍光塗料が塗ってあるガッチリしたのを兄ちゃんが腕から外して自分にくれた。いかにも青少年向きのタイプ。それを10年後就職で初めて生家を出て東京に行くときに兄ちゃんが自分の腕にある社会人向きのと交換してくれた。そして次、14年後のロンドン赴任に際して父の形見の時計を腕から外して’お前が持っていてくれ’と言った。その時に一緒にくれたのが、父が健在だったころ伊丹空港でプロペラ機をバックにした米人バイヤーと一緒の写真と、黒い厚紙タイプの父の自動車運転免許証だった。もう会えないと思ったのだろうか。節目の儀式のつもりなのだろう。兄にはそういうところがある。この時計は父がはぶりの良かったときに手に入れた旧式の自動巻きだと記憶している。自分が手にしてからどういうわけか調子が良くない。ミュージカルの開演時間に遅れて妻に顰蹙をかったこともあった。ロンドンの有名時計店や日本のデパートの時計売り場に持ち込んでもすぐに調子が悪くなってしまうのだ。持ち主の徳のせいかと思ったりしたものだ。それがそれが製造元で分解修理を受けてからは不具合がピタッと無くなった。もはやアンティーク扱いで日本には部品がなく、スイス往復の空輸料金がオンされて高額なこと一瞬声が出なかった。何と京都の一見さんお断り並みのお値段なのだから。それだけの値打ちのある修理だったのも事実。伝統の京都と同じで決してお客には’損させしまへんえ’。

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(バーカウンターに二つの時計を置いて撮影。息子達が引き継いでくれるだろうか、

 それとも。。。)